【渋谷駅周辺エリア】エンターテイメントのDNAを継ぐ、芸術と文化の聖地。

2022.11.30

歴史の変遷とともに地域ごとの特色が育まれてきた渋谷区の魅力を、6つのエリアに分けてお届け。日本を代表するビッグターミナル、渋谷駅。かつては野原だった地に、時代ごとの先駆者が集い、新たな文化を開拓し続けてきた。今では、揺るがない渋谷カルチャーとして発展した聖地を巡る。

音楽、伝統文化、劇場など、街自体が巨大な〝エンタメ装置〞。

4社8線の鉄道路線の乗り入れ。1日の乗降客数約330万人。 渋谷駅には、平日・休日問わず多くの人が行き交う。

渋谷駅の歴史の始まりは1885年。東京都の中心地である皇居周辺から遠く離れた立地で、野原の中にポツンと駅舎ができる。 開業日の利用者数は、なんと0人。それから130年以上の時が流れ、見ての通り、劇的な都市化と発展を遂げてきた。今では、日本で3番目に大きなターミナル駅となっている。

渋谷駅に面した5つの通りが集まる、渋谷ス クランブル交差点。今では観光地に。

多くの人が、暮らし、働き、まるで街自体が巨大な〝エンタメ装置〞であるかのように、衣食住に関わるカルチャーが次々に生まれている。駅周辺のあちらこちらで同時多発的に生まれた、クラブやレコードバーなどの音楽文化もそのひとつ。渋谷公会堂(現・LIN E CUBE SHIBUYA)や渋谷区文化総合センター大和田にある、さくらホール・伝承ホールといった渋谷カルチャーを発信する拠点となったホールの存在もこの地域を語るうえで欠かせない。

過去から未来へと、芸術や文化 を継承し、発展させていくDNA が、渋谷駅周辺には脈々と受け継がれている。

世代を超えて、自分好みの名盤に出合える街。

[百軒店商店会]

向かい合うミュージックバーがつなぐ、渋谷百軒店商店会の魅力。

渋谷駅から道玄坂を上がった中腹にあるアーケードが街の入口。その地で、50年以上、ロック喫茶「B.Y.G」を営む安本隼三さんが、百軒店商店会の現・会長を務める。

「昔から、多様性に対して寛容な街でした。ただ、チェーン店やデベロッパーには迎合せず、文化を残してきたからこそ、今の街の姿があります」 

個店が軒を連ね、音楽に浸れる夜を提供してくれる百軒店。そんな街の風土に惚れ込み、今井洋さんはこの地にやってきた。

左には「B.Y.G」、右には「ばあながさき」と、通りを挟んで2つのミュージックバーが向かい合う百軒店のメインストリート。

「渋谷の音楽文化を長年発信する『B.Y.G』の向かいで、自分の好きな音楽とお酒を提供できるのはうれしさと同時に緊張感があります。ただ、安本さんの懐の深さがあるからのびのび街づくりに参加できる。世代も国境も超えた百軒店カルチャーの立役者なんです」 

まもなく100周年を迎える百軒店商店会。音楽の名盤のように、時代を超えて、人の胸を震わせる場所となっていく。

B.Y.G

1969年にオープンした、ロック喫茶。地下には、バンド「はっぴいえんど」や「BEGIN」、「はちみつぱい」も立った伝説のステージがある。レコードのリクエストもできる。

Music Bar NAGASAKI

元・百軒店商店会会長を務 めた中川徳穂代表と知子マ マから今井洋さんが引き継 ぎ、リニューアル。レトロ な内装と DJ ブースやアート が共存する百軒店の新名所。

伝統文化を未来につなぐ。

[伝承ホール]

金王丸と伝承ホール。新しくて楽しい、創作カブキ踊り。

「伝承ホール」は、伝統文化を後世に受け継ぐ渋谷の拠点。名物となる舞台が、2010年から上演される「渋谷金王丸伝説」だ。

「渋谷金王丸はこの街と縁の深いヒーローなんです。源義朝の家来で渋谷を開墾したと言われる人。ただ、諸説あり、詳しい功績は分かっておりません。その未知なところにロマンを感じ、歌舞伎役者の松本幸四郎さんと共に新作『渋谷金王丸伝説』を創りました」と鈴木英一さんは話す。

子どもから大人まで、渋谷区民も舞台に参加して公演されるのが、この演目の特徴でもある。

渋谷カブキ音頭」は一般参加者も交えて踊り、公演後は交流を図るなど、他に類のない試み。

「理屈や常識を超えて体感できるのも歌舞伎(傾奇)の魅力。伝承ホールという場所がきっかけで、歌舞伎の新たな魅力が広がり、次の時代に受け継がれる “新たな古典”をこの地で築きたい」と幸四郎さんは話す。

カブキ史の新たな1ページが伝承ホールで味わえる。

渋谷区文化総合センター大和田 伝承ホール

江戸の芝居小屋をイメージ した自由な空間。花道や桟 敷席などが設けられ、演者 と観客が一体となれる工夫 がされている。2010年11 月にオープン。

 

右/松本幸四郎さん

歌舞伎俳優

1973年生まれ。1979年、
三代目松本金太郎として初舞台を踏む。1981年に七代目市川染五郎、2018年に十代目松本幸四郎を襲名。

左/鈴木英一さん

伝承ホール寺子屋 プロデューサー

1964年生まれ。主著に『十代目松本幸四郎への軌跡』。伝承ホール及び寺子屋塾の立ち上げに参画。創作カブキ踊り「渋谷金王丸伝説」を企画。